5月、6月になると「住民税決定通知書が会社からもらえない」という情報をよく見かけます。
それについては別記事にて詳細に説明していますが、そもそも住民税決定通知書とはなんなのでしょうか?
「住民税決定通知書が会社からもらえない」という人は、今ではふるさと納税の控除がきちんとされているか?がメインでしょう。
あとは住宅ローンを組むときに、金融機関などに要求されて「あれ?そんなのもらったっけ?そもそもその住民税決定通知書ってなに?」という人もいるかもしれません。
住民税決定通知書とは?
住民税を確認する書類 住宅ローンやふるさと納税にも使われる
住民税決定通知書とは? 住民税を確認する書類 住宅ローンやふるさと納税にも使われる
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- 住民税決定通知書とは住民税を確認する書類
住民税決定通知書、正式名称は、サラリーマンの場合「給与所得等に係る特別市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書」、個人事業主、フリーランスなどの場合は「税額決定兼納税通知書」などとなっています。
そんな住民税決定通知書とは、なんの目的で発行されていて、何が書かれていて、どんな目的で利用されるのでしょうか?
住民税を確認する書類
住民税決定通知書とは何か?というと、住民税決定通知書が発行される一番の目的は、納税者に納税者の住民税を知らせるための書類です。
つまり住民税決定通知書には住民税が記載されています。
所得
住民税決定通知書では所得を確認することができます。
所得と住民税の関係は以下のようになっています。
住民税は、道府県民税と市町村民税から成り立っていて、道府県民税、市町村民税、それぞれが所得割と均等割から成り立っています。
つまり住民税は所得から計算されている部分もあるということです。
そのため住民税決定通知書には「所得」が記載されています。
控除
次に所得控除ですが、前述の所得の際に出てきた「所得割」、つまり所得を元に計算される納付すべき部分の住民税ですが、以下のように計算することになっています。
所得を計算するには、サラリーマンであれば、収入から給与所得控除を引きます。個人事業主やフリーランスであれば収入から経費を引きます。
次に課税標準額を計算するには所得から控除を引きます。
つまり控除額がわからないと、課税すべき所得がわからないのです。
- 課税標準=所得-控除
課税標準
次に課税標準ですが、先述のとおり、所得割を計算するにあたっての税率をかける対象となる金額となります。
収入からサラリーマンであれば給与所得控除を引き、個人事業主、フリーランスであれば経費を引き、所得を算出します。
所得から控除を引いたものが課税標準となります。
その計算された課税標準が「総所得③」になります。
あとの山林所得、分離短期譲渡、分離長期譲渡、株式等の譲渡、上場株式等の配当、先物取引などがあれば、この課税標準に足されることになります。
わかりやすい例を出せば、サラリーマンに給与所得があり、それとは別に山林所得があれば、サラリーマンに給与所得が、所得→控除→「総所得③」となり、さらにプラス山林所得ということになります。
なぜ市町村は個人の所得を知っているのか? サラリーマンは年末調整、個人事業主・フリーランスは確定申告
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- 市町村が個人の所得を知っている
- 個人事業主やフリーランスは確定申告
- サラリーマンは年末調整
個人事業主やフリーランスの人は税務署がなぜ所得を知っているのか?は当然わかっているはずです。
サラリーマンの人は、人によって違いはあるでしょうが、ヘタをすれば自分が所得税や住民税を払っていることさえ意識していない人もいるかもしれません。
個人事業主やフリーランスの所得を市町村が知っている
個人事業主やフリーランスの人は確定申告をします。
そうすると所得税が決まり納付します。
すると税務署から市町村に確定申告のデータが送られてきて、市町村はそれを元に住民税を計算します。
サラリーマンの所得を市町村が知っている
サラリーマンの人は基本的に確定申告はしません。
それは会社が年末調整をしているからです。
年末調整は言ってみれば、サラリーマンの代わりに会社が確定申告をしてくれている、ということです。
個人事業主やフリーランスの確定申告同様、年末調整によってサラリーマンの所得のデータは税務署に送られます。
税務署はそのサラリーマンの所得のデータを市町村に送ります。
市町村はそのサラリーマンの所得のデータを元に住民税を計算するのです。
住民税決定通知書が会社でもらえる理由は? 市町村が住民税決定通知書を会社に送ってくるから
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- 住民税決定通知書は市町村が会社を経由して送ってくる
個人事業主やフリーランスの住民税決定通知書は市町村から直接送られてきます。
サラリーマンの住民税決定通知書は会社でもらえます。
では、なぜサラリーマンの住民税決定通知書を会社が持っているのか?ということですが、
それは市町村が会社にサラリーマンの住民税決定通知書を送ってくるからです。
市町村が会社にサラリーマンの住民税決定通知書を送ってくる理由はふたつあります。
- 会社に源泉徴収金額を知らせるため
- サラリーマンの住民税決定通知書を会社からサラリーマンに渡してもらうため
会社に源泉徴収金額を知らせるため
市町村が住民税を徴収するにはふたつの方法があります。
- 普通徴収
- 特別徴収
サラリーマンは後述する特別徴収です。
特別徴収は、住民税を普段の給料から源泉徴収して、サラリーマンの代わりに市町村に納付する歩王法です。
会社が源泉徴収するためには、各サラリーマンの住所地の各市町村の住民税を把握する必要があります。
つまり、市町村は住民税決定通知書によって会社に源泉徴収すべき住民税を知らせてくるのです。
そして、同時にサラリーマンへの配布用の住民税決定通知書も送付してきます。
普通徴収
住民税を源泉徴収するなどの方法を取らず、直接住民税決定通知書を個人に送付し、個人が住民税を納付する方法が普通徴収です。
主に個人事業主やフリーランスが住民税を納付する方法になります。
その他サラリーマンが退職した際、会社が徴収できなくなった住民税を普通徴収する場合などがあります。
特別徴収
会社が源泉徴収をして、サラリーマンの代わりに、住民税を市町村に納付する方法が特別徴収です。
サラリーマンの住民税決定通知書を会社からサラリーマンに渡してもらうため
市町村は住民税決定通知書によって会社に源泉徴収すべき住民税を知らせてきて、同時にサラリーマンへの配布用の住民税決定通知書も送付してきます。
そのサラリーマンへの配布用の住民税決定通知書が、サラリーマンが会社から受け取る住民税決定通知書です。
つまり市町村が会社を経由してサラリーマンに住民税決定通知書を渡しているということです。
納税者に住民税を知らせる住民税決定通知書、他に利用用途は? 住宅ローンやふるさと納税にも使われる
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- 住民税決定通知書の利用用途
- 住民税の確認
- 住宅ローンの返済能力確認
- ふるさと納税の控除額の確認
サラリーマンは市町村から会社を経由して、個人事業主やフリーランスは市町村から直接送られてくる住民税決定通知書。
一番の目的は、サラリーマン、個人事業主やフリーランスといった納税者に住民税を知らせることであり、サラリーマン、個人事業主やフリーランスなど納税者は自分の住民税を確認することです。
しかし、そのデータの信憑性の高さから、別の目的で利用されることもあります。
それは例えば、
- 住宅ローンの返済能力確認
- ふるさと納税の控除額の確認
などです。
住宅ローンの返済能力確認
住宅ローンの申込をすると、金融機関は住宅ローンを組んだ人の支払い能力を確認する必要があります。
物件価格までの融資が可能か、いくらくらいまでの融資が可能かなど、その人の返済能力などを調査した上で融資します。
もし会社が住民税決定通知書を配布してくれないのであれば、上述しているように収入や所得を証明するには、住民税決定通知書よりも課税証明書、納税証明書がありますので、金融機関等に「課税証明書、納税証明書で代替できないか?」を確認した方がいいでしょう。
ふるさと納税の控除額の確認
ふるさと納税をすると住民税が控除されます。
その住民税が控除されているかどうかを確認するのは住民税決定通知書です。
ふるさと納税にはワンストップ特例制度と確定申告があります。
ふるさと納税 ワンストップ特例制度と住民税決定通知書
ふるさと納税をワンストップ特例制度を利用して申請すると、住民税の減税のみの控除となります。
つまり、ふるさと納税をワンストップ特例制度を利用して申請した場合、ふるさと納税の恩恵である住民税からの控除は住民税決定通知書で確認することになります。
ふるさと納税 確定申告と住民税決定通知書
ふるさと納税を確定申告すると、住民税と所得税の両方からの控除となります。
ふるさと納税を行った年の所得税からの控除(還付)と、翌年の住民税から控除となります。
つまり、確定申告した場合、ふるさと納税の恩恵である住民税と所得税からの控除のうち、住民税は、住民税決定通知書で確認することになります。
住民税と所得税は納付時期が違う? 所得税はその時払い、住民税は後払い
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- 所得税はその時払い
- 住民税は後払い
住民税と所得税、サラリーマンにおいては同時に源泉徴収されているので、その納付時期の違いを意識することはないかもしれません。
住民税と所得税は、サラリーマンにおいてはその納付時期は違います。
カンタンに言えば、
- 所得税はその時払い
- 住民税は後払い
です。
所得税はその時払い
所得税は、前年の所得を元に概算で源泉徴収します。
概算ですので、正確な金額ではありません。
そこで年末調整です。
年末に正確な所得を把握して、概算で源泉徴収してきた所得と比較し、多く源泉徴収しすぎていれば還付、少なく源泉徴収していたらその分を徴収します。
年末に調整するから年末調整です。
つまり所得税は、前年の所得を元に給与の度にタイムリーに源泉徴収しているわけです。
住民税は後払い
所得税が、前年の所得を元に概算で源泉徴収されているのに対し、住民税は年末調整で確定した所得を元に、会社が税務署を経由して送った市町村で計算されます。
サラリーマンの住民税が6月から変わることがあります。
これは前年の12月の年末調整で確定した所得に対して、市町村が計算し直した住民税が当年6月から翌年5月にかけて徴収されるからです。
つまり住民税は、所得税と違って年末調整をした後の確定した所得に対し、後から支払うのです。
新入社員は1年目は住民税がかかりません。2年目から住民税がかかるのはそういったシステムによるのです。
逆に退職すると、会社は源泉徴収できなくなるため、普通徴収に切替えるか、退職時に残りの住民税をまとめて源泉徴収をしてもらう必要があります。
会社から住民税決定通知書がもらえない時は? 基本的に所得・課税証明書でOK どうしてもなら会社に頼む
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- 会社から住民税決定通知書がもらえない
- 基本的に会社は住民税決定通知書を配布する
- 一般的に所得・課税証明書で代替できる
- 会社にお願いしてみる
- 会社は住民税決定通知書を配布する義務はない
会社から住民税決定通知書がもらえないという話をよく聞きます(私は経験したことはありませんし、給与担当者だったので普通に配布していましたが)。
- 基本的に会社は住民税決定通知書を配布する
- 一般的に所得・課税証明書で代替できる
- 会社にお願いしてみる
- 会社は住民税決定通知書を配布する義務はない
基本的に会社は住民税決定通知書を配布する
基本的に会社は住民税決定通知書を配布します。
<参考>地方税法321条の4第1項
市町村は、前条の規定により特別徴収の方法によつて個人の市町村民税を徴収しようとする場合には、当該年度の初日において同条の納税義務者に対して給与の支払をする者(他の市町村内において給与の支払をする者を含む。)のうち所得税法第百八十三条の規定により給与の支払をする際所得税を徴収して納付する義務がある者を当該市町村の条例により特別徴収義務者として指定し、これに徴収させなければならない。この場合においては、当該市町村の長は、前条第一項本文の規定により特別徴収の方法によつて徴収すべき給与所得に係る所得割額及び均等割額の合算額又はこれに同条第二項本文の規定により特別徴収の方法によつて徴収することとなる給与所得以外の所得に係る所得割額(同条第四項に規定する場合には、同項の規定により読み替えて適用される同条第二項本文の規定により特別徴収の方法によつて徴収することとなる給与所得及び公的年金等に係る所得以外の所得に係る所得割額)を合算した額(以下この節において「給与所得に係る特別徴収税額」という。)を特別徴収の方法によつて徴収する旨(第七項及び第八項において「通知事項」という。)を当該特別徴収義務者及びこれを経由して当該納税義務者に通知しなければならない。
(出典:e-Gov)
ちょっと長いので抜粋しますが、
市町村の長は、「給与所得に係る特別徴収税額」「通知事項」を特別徴収義務者及びこれを経由して納税義務者に通知しなければならない。
これは後述する「義務はない」の根拠となる条文ですが、市町村長は、特別徴収義務者(会社)と特別徴収義務者(会社)経由して納税義務者(社員)に通知しなければならない。
のですから、「通知しなければならない。」の部分は市町村長の義務としても、義務のあるなし、法律違反であるかないかは別として、経由された会社は常識的に通知すべきなのです。
一般的に所得・課税証明書で代替できる
例えば上述の住宅ローンにしても、何を証明しなければならないのか?という問題です。
住民税決定通知書で証明しなければならないのは、一般的に「所得」でしょう。
所得を証明するなら、住民税決定通知書と同様、公的機関である市町村が発行する「所得・課税証明書」で事足りるはずです。
ただ、相手先によっては融通が利かず、住民税決定通知書でないと認めないという場合もあり得ます。
本来、コロナ禍における事業者への支援が目的であるはずの、しかも経済産業書や中小企業庁という市町村以上に公な期間が、「所得」を証明するのに、ほぼ提出不可能な「住民税申告書」を要求してきて、代替として「所得・課税証明書」を提出しても、「あくまで”住民税申告書”でないと受け付けない」という事実もあります。
>これは驚き!まさかの事業復活支援金で所得・課税証明書が住民税申告書の代わりにならない!

会社にお願いしてみる
別にお願いする必要はなく、当然受け取るものですが、特に日本社会、日本の会社では事を荒立てると査定にも響くという可能性もあります。
思いは腹におさめ、会社、特に給与担当者にお願いしてみましょう。もらったもの勝ちです。
コピーという手も
もうひとつは会社で保管用の住民税決定通知書のコピーをもらうという手もあります。
これは自分でうっかり失くしてしまった時にも使える可能性のある手です。
上述、
市町村の長は、「給与所得に係る特別徴収税額」「通知事項」を特別徴収義務者及びこれを経由して納税義務者に通知しなければならない。
から見ても、会社は市町村から住民税決定通知書を送られているはずで、それがなければ源泉徴収ができないのです。
つまり持っていないはずはない。
ということです。
その会社用の住民税決定通知書をコピーしてもらうのです。
会社は住民税決定通知書を配布する義務はない
しかしながら、ネット上でもこの「会社は住民税決定通知書を配布する義務はない」という理論があります。
その情報の需要は、会社や給与担当者でしょう(「面倒だから配布したくないのだが、配布する義務はあるのか?」と)。
残念ながらそれは本当で、法律的には会社は従業員に住民税決定通知書を配布する義務はないようです。
<参考>地方税法321条の4第1項
市町村は、前条の規定により特別徴収の方法によつて個人の市町村民税を徴収しようとする場合には、当該年度の初日において同条の納税義務者に対して給与の支払をする者(他の市町村内において給与の支払をする者を含む。)のうち所得税法第百八十三条の規定により給与の支払をする際所得税を徴収して納付する義務がある者を当該市町村の条例により特別徴収義務者として指定し、これに徴収させなければならない。この場合においては、当該市町村の長は、前条第一項本文の規定により特別徴収の方法によつて徴収すべき給与所得に係る所得割額及び均等割額の合算額又はこれに同条第二項本文の規定により特別徴収の方法によつて徴収することとなる給与所得以外の所得に係る所得割額(同条第四項に規定する場合には、同項の規定により読み替えて適用される同条第二項本文の規定により特別徴収の方法によつて徴収することとなる給与所得及び公的年金等に係る所得以外の所得に係る所得割額)を合算した額(以下この節において「給与所得に係る特別徴収税額」という。)を特別徴収の方法によつて徴収する旨(第七項及び第八項において「通知事項」という。)を当該特別徴収義務者及びこれを経由して当該納税義務者に通知しなければならない。
(出典:e-Gov)
市町村の長は、特別徴収税額(住民税額)を、特別徴収の方法によつて徴収する旨を、当該特別徴収義務者(会社)及びこれを経由して当該納税義務者(社員)に通知しなければならない。
となっていて、「市町村」が通知しなければならないのであって、特別徴収義務者(会社)が通知しなければならないわけではない。
ということです。
しかし「経由」するのであるから、特別徴収義務者(会社)も義務があるのではないか?という考え方も出てきます。
<参考>地方税法50条の9(特別徴収票)第五十条の九 分離課税に係る所得割の特別徴収義務者は、総務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した退職手当等について、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に特別徴収票二通を作成し、その退職の日以後一月以内に、第三百二十八条の十四の特別徴収票とあわせて、一通を市町村長に提出し、他の一通を退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。ただし、総務省令で定める場合は、この限りでない。
(出典:e-Gov)
これは、退職金にかかる住民税に関する地方税法の規定です。
特別徴収義務者(会社)は、特別徴収票二通を作成し、一通を市町村長に提出し、他の一通を退職手当等の支払を受ける者(退職する社員)に交付しなければならない。
とされています。
つまりここでは、
特別徴収義務者(会社)が支払を受ける者(退職する社員)に「交付しなければならない」。
と明記されているわけです。
- 住民税:市町村の長が特別徴収義務者を経由して通知しなければならない。
- 住民税(退職金):特別徴収義務者(会社)が交付しなければならない
それらを勘案すると、特別徴収税額(住民税額)を納税義務者(社員)に通知する義務があるのは、市町村の長であって、特別徴収義務者(会社)ではないと解釈できるのです。
>住民税決定通知書は会社からもらえない件についてくわしくはこちら

まとめ
住民税決定通知書とは? ということでしたが、住民税を確認する書類で、住宅ローンやふるさと納税にも使われます。
なぜ市町村は個人の所得を知っているのか?については、サラリーマンは年末調整、個人事業主・フリーランスは確定申告をすることによって市町村にデータが連携されます。
住民税決定通知書が会社でもらえる理由は、市町村が住民税決定通知書を会社に送ってくるからです。
納税者に住民税を知らせる住民税決定通知書の利用用途は、住宅ローンやふるさと納税です。
住民税と所得税は納付時期が違います。所得税はその時払い、住民税は後払いです。
会社から住民税決定通知書がもらえない時は、基本的に所得・課税証明書でOK どうしてもなら会社に頼むのがよいでしょう。
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